期間を定めた労働契約での雇い止めの有効性
期間の定めのある労働契約において、次回の契約更新をしないこと、いわゆる「雇い止め」について、労使双方からの相談が多くあります。
期間の定めがある雇用契約においては、その期間の満了により当然に契約が終了するもので、次回の契約を更新しないことに問題性はありません。
しかし、注意点として、「反復更新されることによって期間の定めのない契約と実質的に異ならない」と認定される場合があるということです。
ちょっとややこしい言い回しですが、「反復更新されることによって“期間の定めのない労働契約”と同視することが社会通念上相当と認められる“期間の定めのある労働契約”」について、その解釈の通達がありますので、ご紹介します。
直接、雇い止めの合法性に関する通達ではないのですが、『短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律』(パートタイム労働法)の第8条2項に「前項の期間の定めのない労働契約には、反復して更新されることによって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めのある労働契約を含むものとする」という条文があります。
基発第1001016号『短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について』がその解釈通達です。
また、育児介護休業法の育介指針に関する解釈通達にも同様の内容があります。
法第8条第2項に該当するかの判断に当たっては、契約の更新回数のほか、様々な事情を考慮して判断する必要があるが、実質的に期間の定めのない契約となっているかについて評価を加えている有期労働契約の雇止めの可否が争われた裁判例(以下「裁判例」という。)等を踏まえ以下のイからニにより判断すること。なお、当該労働契約が反復更新されることによって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められるかについては、最終的には裁判所において判断されるものであることに留意すること。
以降、原文を引用すると相当長くなるので、私なりに要約解釈します。(必ず、原文を参照してください。)
1.判断にあたって考慮すべき事項
(イ)従事する業務内容の恒常性・臨時性及び通常の労働者との同一性の有無
仕事の種類、内容及び勤務の形態が臨時的なのか恒常的なのかということです。
例えば、小売店における販売業務などは恒常的に存続する業務であり、特定のイベントの設営補助のために雇われた場合など一定期間で作業の終了が予定される場合などは臨時的と認められます。また、正社員と比べ単純な作業や精度が要求されないような仕事の場合は正社員との同一性はないと認められます。
(ロ)契約上の地位の性格
契約上の地位が基幹的なのか臨時的なのかとういうこと
例えば、大学における非常勤講師などは臨時的といえます。
(ハ)事業主の言動等の当事者の主観的態様
雇用継続を期待させるような事業主の言動があったりしたかどうか。
例えば、「雇用契約期間は形だけのもの」とか「できるだけ長く働いてもらいたい」とかいう言動があった場合がこれにあたります。
(ニ)更新の有無・回数、更新の手続きの実態
更新の手続きが形式的であるとは、例えば、契約期間満了の都度ただちに契約更改の手続きがとられていなかったり、次の契約内容の始期の経過後に契約を締結したりすることです。労働条件や契約期間などの契約内容についての交渉もなく使用者が記名押印した契約書に労働者が署名押印して返すなどの機械的な手続きを行っている場合です。
(ホ)同様の地位にある他の労働者の更新状況
同様の地位にある労働者について過去に雇い止めの例があったかどうかです。
2.判断にあたって考慮すべき事項の相互の関係
上記の1(イ)から(ホ)までの相互の関係により、「期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にいたっているものである」と認められることが多い点を考慮してください。
(1)業務内容が恒常的であり、契約が複数回更新されている場合
業務内容が恒常的であるかということは、上記1.(イ)を参照。
契約が複数回更新されているということは、少なくとも一回更新されていればこれに該当します。ただし、更新回数がゼロであっても、その事業所において過去に契約更新がされなかった例がなかったり、特段の事情がなければ当然に更新されることが通例となっていたりした場合や、使用者が契約期間を定めていることは形式的なことと明言している場合などは、期間の定めのない労働契約とみなされる場合もあります。
(2)業務内容が恒常的であり、加えて、次の実態のいずれかがみられること
継続雇用を期待させる事業主の言動が認められること
例えば、労働者の「長く働きたい」との希望に応じるような言動を事業主がほのめかすようなことが、これにあたります。
(3)更新の手続きが形式的なこと
上記1(ニ)を参照
同様の地位にある労働者について過去に雇い止めの例がほとんどないこと
「雇い止めの例がほとんどないこと」とは、雇い止めの例が皆無である必要はなく、例えば労働者に欠勤が多いために雇い止めされた場合などを除いて契約が更新されている場合などはほとんどないに当たります。
また、労働者の自己都合で契約を終了した場合などは、そもそも「雇い止め」に該当しないこととなります。
上記のような判断基準で、「実質的に期間の定めのない契約に基づき雇用される労働者である」とされる場合には「雇い止め」は認められず、「解雇」となり、「解雇に関する法理」を類推して適用されることになり、次に「解雇権の濫用」に当たるかどうかが問題となります。