市民病院残業代不払い!その法的根拠
同病院は法律解釈の誤りで一部に不払いがあったことを認め、約600人を対象に2007〜09年度(見込み含む)の3年間分約2億2千万円を支払うとのことであった。
なぜ、このような事態が生じたのか、法的根拠とその解釈を行ってみた。
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1.地方公務員への労働基準法の適用
まず、地方公務員へ労働基準法が適用されるかどうかだが、労働基準法では同法第116条第2項に「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」旨の適用除外の規定はあるものの、地方公務員を適用除外する規定はない。
しかし、地方公務員法において、地方公務員法第58条に労働基準法法第2条(労働条件の決定)、第24条第1項(賃金の支払い)、第32条の2(変形労働時間)、第75条(療養補償)等の適用除外規定はあるが、今回問題となった、時間外、休日及び深夜の割増料金を定めた同法第37条については、適用が除外されていない。
地方公務員にも同法第37条の規定が適用されることとなる。
このように、地方公務員に対しては、原則として労働基準法が適用されるが、労働基準法は労働条件(勤務条件)の最低基準を定めることを目的とするものであり(同法第1条第2項)、したがって、同法が適用される限りにおいて地方公務員の勤務条件はこれを条例で定める場合においても、そこで定められた基準以上のものでなければならないこことなるものと解される。
2.割増賃金の基礎となる賃金
労働基準法第37条では、
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
4 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
と規定している。
また、労働基準法施行規則第21条には、
第二十一条 法第三十七条第四項 の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項 及び第三項 の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一 別居手当
二 子女教育手当
三 住宅手当
四 臨時に支払われた賃金
五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
つまり、割増賃金の基礎となる賃金から除外して良いのは、
1.家族手当
2.通勤手当
3.別居手当
4.子女教育手当
5.住宅手当
6.臨時に支払われた賃金
7.一ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
のみであり、限定列挙の形をとっている。
熊本市民病院では、医師らの時間外手当について、国家公務員の一般職に準じ支給し、「給料の月額」と「地域手当」を基礎単価とした1時間あたりの額に割増率を掛けて算定していた。
本来は基礎単価に加えなければならない医師を対象とした「初任給調整手当」と、看護師らも含めた「医療等業務従事手当」が抜けていた。
つまり、地方公務員への労働基準法の適用と割増賃金の基礎となる賃金の解釈において、誤りがあったことになる。
それにしても、3年間分の不払いとはいえ2億円あまりの、市財政からの新たな出費となると、法解釈の誤りであったとは済まされない問題である。
これが、民間の人事労務責任者であれば、責任をどう問われるであろうか。